ながいひとりごと

主に映画の感想を書きます。

情報的にはあまり新しくないが…『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』

 


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デヴィッド・ボウイドキュメンタリー映画だが、彼を題材とした他のドキュメンタリー(例えばBBCによる『デビッド・ボウイ 5つの時代』など)と異なり、語りはすべてボウイ本人の言葉のみで構成されている。編集は、他の影響も勿論考えられるが、そもそも映画中にも一部流れる『Hallo Spaceboy』のMVの影響を受けているように見える。

形式は新しいが、情報そのものに新しさがある作品ではなく、他のボウイのドキュメンタリーや記事と比較して新しい解釈が提示されるところはあまりない。しかし、まとまった形で提示されることの少ない視点を提示している部分が少しあり、それらが興味深かった。

例えばアルバム『Station to Station』は人気投票で上位になることも多いなど、高く評価されている。しかしそれが制作されたアメリカ滞在時があまり好ましくない経験として描かれている。確かに彼が薬物依存に陥っていたことはしばしば他の作品でも語られてきた。しかし、この映画では、音楽的にどうだったかよりも大事なのは、『Future Legend』や『Cracked Actor』の歌詞が象徴するものに本人が実際に飲み込まれてしまった状況だ、と示される。

アルバム『Let's Dance』の制作動機については、いきなり方向転換したのではなく、それまでがあってこそのものだと表現されている。ボウイが年齢を重ねて分かり易い作品、あるいは明るい作品を作りたくなったと語る中、ボウイが一人でアジアを旅する映像(ドキュメンタリー『Ricochet』からの引用)が流れる。この映像により、それまでの思慮に富んだ作品を作っていた彼と地続きであることが分かるのだ。『Let's Dance』に合わせて70年代の踊る姿が流れるのは、それを殊更に強調しているようにも見えた。

90年代以降についても本人の発言がある限り見てみたかった。尺の問題もあるがその時期についての、”過去を振り返って”という形の本人の発言が存在していないから…という(悲しい)理由も考えられる。

 

2023/04/03 一部編集