ながいひとりごと

主に映画の感想を書きます。作品の展開は明かしているのでご注意ください。

有害な男らしさと『フォールガイ』


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主人公コルトは業界一のスタントマンであるが、高所からの落下スタントの事故で大怪我をしたことで、スタント業から離れていた。

しかし、映画プロデューサーのゲイルに、疎遠となってしまった元恋人のジョディの監督作のスタントマンを務めてほしいと頼まれたことで、復帰することになる。

コルトはジョディの復縁を期待して撮影現場に向かうが、ジョディの態度はつれなく、そうはいかなかった。

車内でコルトが音楽を聴き涙を流す場面、彼は二人の過去を回想している。回想の中、ジョディが座った位置が”上昇”していくのは象徴的だ。二人はクルー同士の立場だったが、コルトが業界から離れている間にジョディはカメラオペレーターから”出世”し、監督になり、現場のリーダー的立場となった(コルトはジョディのことを”ボス”と呼ぶ場面もある)。コルトが落下したのとは対照的に、ジョディは上昇していたのである。

ジョディは優秀な監督として描かれている。彼女は次々やってくるスタッフらの提案に的確に指示を出していき、部下をひどく罵る者がいれば、敬意をもって接するよう諭す。まくし立てるように話すこともあるが、それは威圧的ではなく、創作意欲に富んでアイディアが止まらないかのように表現されている。現実に、ハリウッドの大作映画に女性監督は少ないが、そんな男性中心業界を舞台にした中、ジョディは伝統的な男らしさとはやや異なった特徴を持ちながらも出世している(あるいはしかかっている)人物として表現されている。

そんなジョディがコルトと車内で二人きりで話す場面*1、彼女はスタントの合図、サムズアップに嫌悪感を示す。

彼女のその言葉にコルトが真に応えるのは、追手から逃げつつボート上でジョディに電話をかける場面である。

コルトは、本当は火だるまになったりする数々のスタントは、本当は痛かったのだと語る。それはあの撮影現場でのスタントを何回も試みることーージョディと復縁したいという思いが届かないことに、彼は傷ついていたのだと認める。つまりサムズアップの通り大丈夫、ではなかったことをジョディと共有する。そのせりふをコルトは自画自賛、つまり自分自身でもそれを受容し、彼は傷つきうる存在であると示される。

その後すぐに追手が迫りボートは爆破される。しかし海に飛び込んだコルトは生き延びており、陸に上がった時には今まで着ていたジャケットを捨て、タンクトップに筋骨隆々な姿を現す。それは伝統的なマッチョな男らしさのイメージと被るのだが、自らの可傷性を認めたコルトのその内はやや異なるものである。

コルトとジョディの二人と対照的なのが、悪役ともいえるトムとゲイルの二人である。大スター俳優であるトムは自らをグローバルブランドだと語る。彼のスタントはコルトによるものであるのに、自分でそのスタントをこなしていると嘘をつき、力強さや万能性を誇示しようとした勢いで自らの側近を殺害してしまうのである。虚構の力強さにすがるトムはまさに有害な男らしさを象徴しているといえる。

トムが他の人を蹴落としてまで地位を守ろうとしているのと、コルトの姿勢は対照的でもある。コルトは自分が失意の間にジョディが昇格していても、そのこと自体は受け入れることができるのだ。そしてスタントコーディネーターのダンやアシスタントのアルマなど様々な人と助け合う様子は対照的である。

ゲイルがジョディに追い詰められ逃げようとする場面、彼女はジョディは「有害な男らしさ」に満ちた業界でともにやってきたと認めつつ、ジョディは扱いやすいから監督にしたのだと、踏み台としてしか考えていなかったことを明かす。ゲイルがコルトに濡れ衣を着せたのは、単に映画を成功させたいということにとどまらず、有害な男らしさを否定するふりをしながらも、結局のところそれに固執していたからだったのである。

伝統的な男らしさとは異なった特徴を持ったコルトとジョディの二人がハッピーエンディングを迎える。一方で映画の一番最後、その男らしさを濫用した有害な男らしさの象徴であるトムは爆発によって吹き飛ばされ跡形もなく消え去る。

ゲイルは映画は、セクシーなベーコンにメッセージを包んでいると語った。『フォールガイ』のアクションやロマンスといったベーコンに包まれたメッセージのひとつは、有害な男らしさを映画業界から吹き飛ばすことだったのではないだろうか。

*1:

この直前で、コルトが聴く音楽が、女性アーティストであるテイラー・スウィフトの”All Too Well”だったというのも興味深い。

コルトが好んで聴いたこの曲と、ジョディがカラオケの場面で歌う曲を比較してみたい。

コルトが自分に何も言わず姿を消した傷心のジョディがカラオケで歌うのは、男性アーティストのフィル・コリンズの”Against All Odds (Take a Look at Me Now)”だった。

『フォールガイ』のテーマソングともいえる曲はオープニングをはじめ繰り返し流れるKISSの楽曲I Was Made For Lovin' Youであり、どちらかといえばジョディの選曲に近いといえるのだった。