ながいひとりごと

主に映画の感想を書きます。

落ち着いているように見えて実はスポ根?『ケイコ 目を澄ませて』


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『ケイコ 目を澄ませて』は終始落ち着いたトーンで語られる映画だ。しかし、中心となる部分は熱血的なものであるように思う。

中盤、主人公ケイコはボクシングを一度休みたいという思いを抱えつつも、それを所属するジムの会長に打ち明けることができない。同居している弟に胸の内を話してみるよう促されるも、話しても解決しないのだと言う。そもそも、ケイコはなぜボクシングをするのかを明確には語らない。結局、ケイコのボクシングを辞めたいというもやもやした気持ちの正体は明らかにはされない。

そんな中、ケイコはジムの会長が自分の試合のビデオを熱心に見ている姿や、共に練習をすることで、再度試合に出てみようと決断し、再び熱心にトレーニングに励むようになる。

この作品は、主人公ケイコを距離感をもって淡々としたトーンで描きながらも、結局のところ主人公が苦難を抱えながら(それは彼女の持つ聴覚障害がボクシングには不利であることかもしれないし、所属ジムが閉鎖間近であること、など複合的で、正体は不明だ)、根性や努力で試合勝利を目指すという展開を持つ。さらにケイコの心情が曖昧な表現にとどまり、周囲の人に頼る描写もない中、明快なのは彼女が「努力して勝利を目指す」ことだというのもあり、この作品にはいわゆるスポ根に近しいものがあるのではないか。

最終的に彼女は試合に敗れるので、このストーリーをスポ根的展開とは呼べないかもしれない。しかし、16mmフィルムで撮られた映像や、歴史あるジムが舞台であることも、落ち着きというよりはスポ根の「古き良き」点を強調しているように見える。