ながいひとりごと

主に映画の感想を書きます。

ままならない身体と力強いラストシーン『バービー』


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映画『バービー』は有名な人形である「バービー」たちのひとりが自身の暮らす「バービーランド」を飛び出し、人間界へとやってくる物語である。主人公の「典型的バービー」(以下バービー)は複数の面における人間の女性の身体のままならなさに遭遇する。そんな中、ラストシーンはそのままならなさについて力強いメッセージを示していると読み取れる。

 

初めて人間界にやってきて、ケンと共に海岸をローラースケーティングしているバービーは、人間の男性たちから暴力的な視線で見られたり、性的に揶揄うような言葉をかけられたりする。そこでバービーは人間の女性の身体が暴力的なものにさらされていることを知る。

これはグロリアが女性の置かれている状況について語るシーン、そしてケンたちとの対峙に繋がっていくが、もう一つ繋がりがあるのは、バービーが人間界に来たきっかけである。

バービーは足が平らになった(=ハイヒールを履いたままのようなつま先立ちが保てなくなった)り、死について考えるようになったり、セルライトができたり、という自身(の身体)に起きた異変に対して不安になり、異変を解決しようと人間界にやってくる。のちに、これらの異変は、人間の女性グロリアが描いた死について考えるバービーなどの絵が作用した結果ということが判明する。そしてこれらの異変=変化は、年齢を重ねれば人間の女性(女性に限らないが)に自然と起こり得ることだ。バービーはグロリアの描いた絵という自分にはコントロールできない力によって、時の流れという同じくコントロールできないことにより人間の女性に起こる変化を知るのだ。

こうして、バービーは人間の女性の身体について外側からやってくるままならない事象、そして身体自体に起こる変化というままならない事象を体験した。外側からの視線については、ケンたちからバービーランドを取り戻す過程の中に変化の兆しが見えている。しかし、身体自身に起こる変化についてはどうか?

バービーは生みの親であるルースとの出会いを経て、人形から人間になる。ラストシーンでは、彼女はそれまでと異なるかしこまった服装をしており、グロリアたちに応援されている様子から、まるで仕事の面接か何かに行くのかと思わせる。しかしバービーはビルの受付に行き“I’m here to see my gynecologist.(婦人科を受診しに来ました)”と言うのだ。

この台詞は驚きや笑いを誘うと同時に、自分の身体を自分のものとする、という力強いメッセージを示している。身体は様々に変化するかもしれないし、それに不安を感じることもあるかもしれない。しかしその時に医療にかかる、つまり自分の身体をケアすることは、自分の身体に何が起きているのかを知り、前向きに向き合っていく行為だ。こうして『バービー』は、自然な変化による身体のままならなさに対しても、自分の身体を自分のものとする方法はある、と私たちに伝えているのだ。