ながいひとりごと

主に映画の感想を書きます。

『逢びき』と『別れる決心』に見られる絶妙なズレ


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『逢びき』はいくつかの「ズレ」ともいえる性質を持ち合わせている。劇中では、各々の家へと帰るため、アレックの乗る列車とクレアの乗る列車の発車時刻には数分の「ズレ」があるというのが代表的だ。

作品の構成としては、二人の最後の別れの時が冒頭に示され、観客は最後の最後にその意味を知ることになるという「ズレ」がある。

それらの中で、小さいながらも二人の関係を決定づけているのが、アレックがクレアに自身の医師としての理想を話すシーンだ。クレアが「あなたが突然若く見えた」と言い、アレックを初めてうっとり見つめるのが、彼が理想そのものというより炭鉱について話し出したときである、という「ズレ」がある。この瞬間にラフマニノフピアノ協奏曲第2番が流れるというのも、この瞬間が重要であることを示している。その後もアレックは炭塵について説明し、クレアはそれを見つめている。二人の恋が本当に始まったといえる瞬間なのに、話す内容はロマンチックさに欠けているところに面白味があるのではないだろうか。

 

一方、『別れる決心』の雰囲気は『逢びき』を参考にしているという。たしかに二作品は設定からして似通っている。しかしその雰囲気の面で『別れる決心』が『逢びき』と決定的に「ズレ」ている点がある。それは『別れる決心』は二人の関係が笑うことに始まり笑うことに終わるという点だ。ヘジュンとソレは取調室で初めて出会ったとき、その場にそぐわないタイミングで笑いあう。そして最後の別れのときも笑うシーンがある。悲しいストーリーであるはずなのに、この笑いが象徴的に使われているという「ズレ」が作品を独特なものに決定づけているのだ。