ながいひとりごと

主に映画の感想を書きます。

2人が見つめ合わない時『ザ・バットマン』

ザ・バットマン』は主人公ブルース・ウェインバットマン活動の二年目の姿を描く映画作品だ。バットマンが連続殺人犯のリドラーを追うにつれ、街の裏側に存在していた陰謀が明らかになる。その中で、バットマンは重要な手がかりを持つ女性セリーナ・カイルに出会う。

セリーナ・カイルは、他映画作品やコミックにも登場する人気キャラクター、キャットウーマンの本名だ。

バットマンとセリーナは、恋愛といえるようないえないような、微妙な関係になる。ここでは、”片方だけが相手のことを見ている”部分に着目して、二人の関係が映像的に興味深く描かれていることを見ていきたい。

なお、以下では主人公がバットマンの姿をしているときはバットマンと表記し、素顔の状態であるときはブルースと表記する。

 

・ブルースが双眼鏡を使ってセリーナの部屋での様子を覗き見る

このシーンは冒頭でリドラーが市長宅を覗き見るシーンと対になっている。リドラーとブルースの共通点を強調し、ブルースが捜査のこととなれば見境がないことを示している。よって、ここではセリーナを疑い邪ともいえる視線を一方的に向けている。つまり、ブルースからセリーナへの感情は一方的で、しかも疑いに満ちている。

 

バットマンとセリーナがコンタクトを通して視界を共有する

セリーナがアイスバーグラウンジでの様子を探るにあたり、バットマンは彼女にカメラ機能付きのコンタクトレンズを着けさせる。

ここでブルースはセリーナと視界を共有することで、彼女が男性たちから向けられる視線を理解する。その視線があまり好ましいものではないと理解すると同時に、その強烈さゆえか、セリーナとファルコーネの間に親密な関係があるのではないかという新たな疑いにつながる。

 

・ブルースがセリーナの映像を繰り返し見る→市長の葬儀場にセリーナがいると勘違いする

ブルースは地下で鏡に映ったセリーナの映像を繰り返し見る。これは鏡像の映像であり、実像からは遠いものだといえる。これを繰り返し見るという行為はブルースの思いの強さを表すと同時に、葬儀場のシーンで実際には存在しないところに彼女の姿を見てしまうことにもつながっていく。

 

・セリーナがコンタクトに自らを映しブルースに呼びかける

セリーナは先のカメラ付きのコンタクトに自分の姿を映し、ブルースに呼びかける。このシーンはブルースにとっては見つめあっている感覚をもたらす。セリーナには彼の姿は見えないものの、ブルースが鏡像の映像を見ていたシーンよりも二人の距離が近づいたことを象徴している。

 

バットマンが、バイクのミラー越しにセリーナを見る

ラストシーン、去っていくセリーナの後ろ姿をバットマンが見る。これも鏡像であるが、ここではコンタクトの映像と異なり、実際の姿を見ている。その点では、最初の窃視のシーンと呼応している。加えて、セリーナもバットマンを見ている可能性があるというのが異なるところだ。しかしながら、セリーナの視点が表現されることはない。これらによって、二人はお互いを認め合うものの結ばれる関係ではないことを示している。